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zoom RSS “二十一世紀旗手”たちよ、悲観するなー太宰治生誕百年に寄せて

<<   作成日時 : 2009/06/20 22:23   >>

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画像鰻が好きな人間には、曲者が多いのだろうか。「彼はウナギが大好物で、お酒を飲みながらペロリと平らげていたということを、よく母から聞かされていました」という、太田治子氏の『鑑賞』を読んで思っていた。鑑賞の対象は『人間失格』、文中の「彼」とはもちろん、太宰治である。最近は集英社文庫の表紙が「デスノート」の小畑健氏(この方も波乱の人生だ)のデザインになり、中高生の心を捕えていると聞く。このブログを愛読してくださっている方は、私の大好物も鰻であることをよくご存知であろう。早稲田大学の近くに、『若竹』という老舗のふぐ屋がある。そこの鰻が大変美味く、同級生の女性と連れだって訪れたりする(太宰ほど色男ではないので、別に口説くためではない)。その太宰治が、生誕百年を迎えた。昨日の桜桃忌も盛大だったようだ。太宰というと、薬物中毒に度重なる自殺未遂、そして女性遍歴とその人生を『拭いがたい暗さ』が覆っているイメイジが世間で浸透している。私も、かつてはそういう感情を抱いていた。しかし、歳を重ねてから読み返すと、全く別の側面を発見する自分に驚く。「この作家は、本当は明るい人だったのではないか」と。


絶筆となった『グッド・バイ』を改めて読んでいた。主人公・田島周二が相棒・永井キヌ子と組んで愛人たちに別れを告げて歩くという、底抜けに明るい作品である。文藝評論家の奥野健男は、新潮文庫の解説でこう書いていた。


もう作者は人間や社会のすべてを極限をまのあたり見てしまった、それ故の軽みであり、明るさである。主人公が、カラス声で怪力無双の汚い闇屋であり、かつ品格高い絶世の美人にも化ける女と喧嘩しながら手を組んで、かつその女たちと別れるため社会の常識に宣戦する。その構想だけでたのしくわくわくしてくる。もし完結していたら、日本にかつてないユーモア諷刺小説が生れていたのにと、ぼくは残念でならない。太宰治にとっては『人間失格』後はどうでもよいと思われたかもしれないが太宰文学の第四の時期は、大きく花ひらきかけていたのである


全く同感である。太宰は『人間失格』で全てを出しきった訳ではなかった。それまでの自分と「グッド・バイ」し、身軽になって新境地を開拓しようとした。しかし、山崎富栄という女性の一途さに最後まで付き合ってしまったというのがあの「入水自殺」の真相であろう。


画像太宰の同人誌仲間だった画家の息子さんの家で、太宰が16歳の頃に書いたエッセーが発見された。そこには、「僕は悲観をしない。僕にはまだ細いながらも自信があるからだ」と記されていたそうだ。「選ばれし者の恍惚と不安」に苛まれる前の、文学少年の微笑ましい矜持である。ヒトは、あらかじめ楽観的になれるようにプログラミングされている生き物だ。その人生で“魂を鍛える”度に、悲観的な「もう一人の自分」が形づくられる。その相反する2つの顔を、どうやって飼い慣らしてゆくか・・・それが、この世で生き抜いてゆくための命題であろう。

太宰の人生には、確かに闇が覆っていた。ただ彼の晩年には、『斜陽』の成功で漸く己の人生に光が当たったという、「自己肯定感」が訪れていたのではないか。彼は死にたくはなかった。艶福というのは、ある種の生への執念である。「全ての芸術は人間の性欲の強さから生まれた」とはよく言うが、太宰は美男子であったがために、余計に女が寄ってきた。もし、山崎富栄のような激情型ではなく、後腐れのない女性の間をぴょんぴょんと渡っていたのなら、我々は年老いてなお旺盛な活動を続ける、文豪の姿を見ることができたのかもしれない。




「死なうと思つてゐた」の書き出しが印象的な、処女作品集『晩年』に収められている『葉』の、最後の一節を引きたい。



よい仕事をしたあとで

一杯のお茶をすする

お茶のあぶくに

きれいな私の顔が

いくつもいくつも

うつっているのさ



どうにか、なる。






急に、鰻が食べたくなってきた。



デザートは、冷蔵庫にあるさくらんぼでいいだろう。



“二十一世紀旗手”たちよ、己の未来を悲観するな。




どうにか、なる。



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